金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
お姉さんは、先生の頬を両手で挟みながら涙声を出した。
「――ようやく、恋ができるようになったのね……」
そう言ってお姉さんが浮かべたのは、本当に、本当に嬉しそうな心からの笑顔だった。
先生は苦笑して、お姉さんに言う。
「……長いこと心配かけました」
「本当よ。私、秋人が心配でお嫁にも行けなかったんだから……」
「それは僕のせいでなく姉さんの性格に問題が……」
「もう、可愛くない弟ね」
お姉さんは先生の頬をむにっと伸ばしてから解放すると、私の方を振り返って微笑を浮かべた。
改めて見ると、ものすごく美人だということがわかってどぎまぎしてしまう。
真っ赤な口紅が似合う人って少ないと思うのに、それが塗られたお姉さんの唇は、花のようにきれい。