金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「火傷は平気です……ごめんなさい、部屋を汚して」
「そんなことは気にしなくていい、それより千秋の服、放っておいたら染みになってしまいます。今、濡れたふきんと新しいお茶を持ってきますから少し待っていて……」
腰を上げかけた先生の服の裾を、私は無意識につかんでいた。
首を傾げて私を見つめる先生に、私は言う。
「服もお茶も、どうでもいいです。だから先生、私の近くにいて……」
「……どうしたの、急に」
不思議そうにしながらも先生はキッチンに行くのを止めて、私の隣に座ってくれた。
「……千秋?」
不安の理由は話せない。
卑怯な私は話さない。
だったら先生に怪しまれないように、もっと気丈に振る舞わなきゃ……
「……先生。しよ?」
不安そうな表情は、私なりのおねだりだと解釈してくれればいいと思った。
そうすれば、きっと深くは追求されない。