金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……どうしたの?」
「どうもしてません……先生はしたくないですか?」
「そんなことはありませんが……」
困ったように私を見る先生。
いくら待っても先生がその気になってくれないので、私は着ていたシャツのボタンを自分から外し始めた。
だけど、手が震えてなかなかうまくいかなくて……
胸元のボタンが外れる前に、先生の手が私の手を包み込んだ。
「姉さんに、何を言われたんですか……?」
……気づかれてる。
だけど、言えない。
言ってしまったら、今こうして先生に隠し事をしていることよりも、ずっとつらい状況になるかもしれないから……
「別になにも……」
「僕に話せないことですか?」
「………………」
「千秋、なんとか言って」
どうしよう……
涙が出てきてしまいそうだ。
でも、真実を話すことだけはできない。
「今日は……帰ります」
私は先生の手を振り払ってカバンを持ち、早足で玄関の方へ向かった。