金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
私は有紗に付き添ってもらって、恩田の元まで行った。
「渡瀬さん、三枝さんをちょっと借りてもいいかな?」
「え……と」
有紗は恩田と私の表情を交互に見て言葉に詰まる。
こんな時普通はすぐにうなずくものなんだろうけど、有紗は私を心配してくれているのだ。
ごめんね、有紗。これから楽しいデートなのに気を遣わせちゃって。
私は大きく息を吸い込み、恩田の着ているシャツの襟を見ながら言う。
「すぐに終わりますか?これから予定があるので」
「…………五分、から十分の間かな」
「五分でお願いします」
恩田は小さくため息をつき、わかりました、と言った。
「下のカウンセリング室で話しましょう」
そう言って私たちに背を向け歩き出した恩田。
私は心配そうな有紗に微笑みかけてから、その後についていった。