金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「千秋は……誕生日、なにが欲しいですか?」
再び歩き出した私たち。
先生の言葉にうーんと首をひねる。
私の欲しいものは……
「先生と……ずっと一緒にいられる権利が欲しいです」
「またそんなことを言って……今日の千秋はやっぱり変です。なにがきみをそんなに不安にさせているんですか?」
「それは……」
こんな調子で、いつまで隠し通せるんだろう。
もっと普通にしてなきゃ、先生だっていつかは気づいちゃうよ……
「先生、もてるから……」
当たり障りのない理由は、それくらいしか思い付かなかった。
「前に千秋が言ってたじゃないですか。いくらモテたって、本当に好きな人に好きって思ってもらえなくちゃ意味がないって。
好意を持ってもらえるのは嬉しいですけど、僕の心に影響を与える“好き”は、千秋がくれるものだけです」
先生は、そう言って優しく微笑んだ。
……信じよう。
信じなきゃ、だめだよね。
少なくとも今この瞬間の先生の気持ちに、嘘はないのだから。