金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「三枝さんはここに居ない方がいいよ、早く出て……?」


「そんな……」



壁に寄りかかって今にも倒れそうなのに、放っておけるわけがないよ……


私は水道でハンカチを濡らして、再び杉浦くんの元へ近づく



「……ここ、腫れてる」



そう言って赤紫に滲んだ頬に、そっとハンカチを当てた。

驚いたように目を見開いた杉浦くんが、呟く。



「三枝さんは、怖くないの……?」


「怖いって、なにが?」


「いじめられてる奴に優しくしたら、標的が自分に移るんじゃんじゃないかって……」


「そうだったら怖いけど……でも、だからって目の前で苦しんでる杉浦くんを見捨ててはおけないよ」


「…………三枝さんって、変」


「変?これが普通でしょ」


「……普通じゃないよ。少なくとも去年同じクラスだった奴らは全員、平気で僕を空気みたいに扱ってた」



そう言っておかしくもないのに笑う杉浦くん。


無理して笑わなくていいのに……


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