金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
杉浦くんは、大きな黒目がちの瞳を伏せながら言う。
「さっき血相変えて助けにきてくれた三枝さんを見て、やっぱり三枝さんのこと好きだなあと思ったんだけど……
僕に恩田先生と同じセリフを言うんだもん、もう望みはないやって思った」
「先生と同じセリフ……?」
「1年のとき、今みたいにあいつらにぼこぼこにされてたところに恩田先生がたまたま通りかかって助けてくれたんだ。
でも、僕へのいじめを知りながら見て見ぬふりをする当時の担任のせいで、教師って存在をその頃は信用してなかったから、優しくしてくれた恩田先生に反抗的な態度を取った。
だけど先生は怒るどころかこう言ったんだ。“僕にできること、なにかありませんか?”って。」
恩田先生……
その優しさは、当時から先生が自分の痛みと戦っていたから生まれたものだと思うと胸が痛くなる。
「その時は“ない”って答えちゃったけど、そしたら今年は恩田先生のクラスになってて、先生は僕のためにいろいろと力を尽くしてくれて……
三枝さんっていう素敵な女の子を教えてくれたのも先生なのに、いいとこは自分で持ってっちゃうんだもんな」
最後の部分だけふざけた調子で言う杉浦くんに、私は曖昧に笑ってうつむく。
「そんな顔しないで?僕は僕を助けてくれた二人のこと、応援してるんだ。
修学旅行も、今日学校へ来れたのも、先生と、三枝さんと、それから班のみんなのおかげだから」
そう言った杉浦くんの笑顔は柔らかくて、今まではかなげで弱々しい印象だと思っていた彼が、本当は素敵な男の子だったんだと気が付いた。