金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
『――もしもし』
「もしもし、あの……」
『もしかして、千秋ちゃん?』
「……はい」
絶対に使うもんかと思っていた電話番号に、私はついにかけてしまった。
緊張で、携帯を持つ手に汗がにじむ。
『小夜ちゃんのこと……知りたくなったのね?』
「……はい。あの、今ご迷惑でしたらまたあとで……」
『大丈夫よ。私もちょうど千秋ちゃんに話したいことがあったから』
ドクン、と心臓がいやな音を立てた。
私に話したいこと……それがいい話なわけがない。
電話したのは間違いだったかもしれない。
今さら後悔してももう、遅いけど……
『――小夜ちゃんが生きてるというのは、小夜ちゃんの家族はみんな知っていたそうよ。
秋人にもう会わせたくないからって、うちの家族にはそれを隠してたんですって。
だけど今になって連絡をよこして、あることを秋人に伝えてくれっていうのよ……』
「あること……?」
お姉さんが、電話の向こうでため息をついた。
なんだろう。怖い……
でも、ちゃんと聞かなきゃ……