金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

『――もしもし』


「もしもし、あの……」


『もしかして、千秋ちゃん?』


「……はい」



絶対に使うもんかと思っていた電話番号に、私はついにかけてしまった。

緊張で、携帯を持つ手に汗がにじむ。



『小夜ちゃんのこと……知りたくなったのね?』


「……はい。あの、今ご迷惑でしたらまたあとで……」


『大丈夫よ。私もちょうど千秋ちゃんに話したいことがあったから』



ドクン、と心臓がいやな音を立てた。


私に話したいこと……それがいい話なわけがない。


電話したのは間違いだったかもしれない。

今さら後悔してももう、遅いけど……



『――小夜ちゃんが生きてるというのは、小夜ちゃんの家族はみんな知っていたそうよ。

秋人にもう会わせたくないからって、うちの家族にはそれを隠してたんですって。

だけど今になって連絡をよこして、あることを秋人に伝えてくれっていうのよ……』


「あること……?」



お姉さんが、電話の向こうでため息をついた。


なんだろう。怖い……


でも、ちゃんと聞かなきゃ……


< 291 / 410 >

この作品をシェア

pagetop