金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
『――結婚したい相手ができたんですって』
「え……?」
『小夜ちゃんが海に飛び込んだときに、彼女を助けてくれた地元の漁師さんで……
今、その彼と暮らしていて、いずれ結婚したいんだそうよ』
……なに、それ。
先生はずっと小夜子さんを想っていたのに。
ずっとずっと苦しんできたのに。
自分は、男の人と暮らしてる……?
苛立ちを感じてぎゅっと携帯を握り締めた私だったけれど、次に言われた言葉でそんなものは吹き飛んでしまった。
『でもね……そうしたいならまず……秋人と小夜ちゃんが、きちんと離婚しなきゃならない』
離、婚……?
ああ、そうか。
死んだと思っていた奥さんが生きてたってことは……
今でも、先生たちは夫婦なんだ。
私……
そんな簡単なことにどうして今まで気がつかなかったんだろう……