金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
『戸籍なんて何かがあった時しか見ないから、秋人も気づいてないんでしょうけど……
小夜ちゃんが生きてるってことは、あの二人はまだ夫婦ってことになってるのよね。
だからね、秋人に小夜ちゃんの居場所を伝えて、二人で話し合う場をつくってあげてほしいの。
今から住所と電話番号を……
千秋ちゃん、大丈夫?』
「…………大丈夫、です」
私は心の悲鳴を無視して、机の引き出しから紙とペンを用意した。
言われた住所と電話番号を、機械みたいにきっちり書き写していく……
先生が私と小夜子さんのどっちを選ぶかなんて、そんなの無意味な悩みだったんだ……
二人はまだ夫婦で、これから話し合って。
小夜子さんは離婚したいと言っても、先生が受け入れるとは限らない。
泣くほど逢いたくて、抱き締めたくて、キスしたかった相手だもん……
もう二度と離さないって思うのが普通なんじゃないかな……
先生を信じてないわけじゃない。
だけど先生は小夜子さんのことだって、本気で愛していたんだから……