金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
――――朝が来た。
昨日の夜は、眠れなかった。
きっと待ち合わせた駅から帰ってくるだけなのに、新潟の寒さに耐えられそうなあたたかなコートを上着に選んだ私は往生際が悪いだろうか。
その中に着ているのは、有紗と菜月ちゃんが選んでくれた、ニットのアンサンブルとスカート。
胸元には、先生にもらったペンダント。
あんなに涙を流したのに、もしかしたら先生が私を選ぶ可能性も1パーセントくらいならあるかもって、かすかな希望が捨てられなくて。
ちゃんと、旅行に行けるように荷物はまとめてある。
サヨナラをしにいくのに、馬鹿だよね……
そんな望みを持ったら、あとでみじめになるのは自分自身なのに。
「――――そろそろ、行かなくちゃ」
私は大きく深呼吸をして家を出た。
頬を突き刺す空気がいつもより冷たい。
せめて晴れてくれればよかったのに、雪でも降りそうな気配の空は、重たい灰色。
まるで不安定な私の心を映してるみたいだ。