金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
駅の中は人がいっぱいで、その喧騒にまぎれて逃げてしまいたくなった。
それくらい、私は緊張していた。
ボストンバッグを足元に置き、柱にもたれて先生を待つ。
その間、通りすぎる人々の中でカップルばかりを目で追っていた。
自分の恋が終わってしまいそうだからか、どのカップルも幸せそうに見えて羨ましかった。
手を繋いで、耳元で何かささやき合って……
これから旅行に行くんだろうなという、荷物の多い人たちも居た。
私も、あんな風に笑って先生とどこかへ行きたかった。
まだ行ったことのない場所、見たことのないものに、二人で一緒に、触れたかったよ……
じわりと滲んだ涙を慌てて拭って、私は首をふるふる横に振った。
まだ、泣いちゃダメ――――