金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……答えにくいのはわかるけど、僕は担任として三枝さんを助けたいと思ってます。
今のまま放っておいたらいつかきみの心が壊れてしまうような気がして……心配だから」
ツキン、と何かが刺さったような胸の痛みには気づかない振りをした。
私は壊れたりなんかしない……
高校を卒業して、就職して、“男性教師”という生き物と二度と関わらなくなればきっと楽になれる。
だからそれまでは、我慢することにしたの。
アンタの助けなんて、いらない。
「……もう五分経ったので帰ります」
「待って!」
恩田の慌てた声に続いて、ガシャンと派手な音がした。
ちら、と振り返ると、恩田が倒したのか花瓶がテーブルに横たわり、スイートピーの花がこぼれた水に浸されていた。
「あぁー……ごめんなさい、せっかく綺麗に活けてあったのに」
恩田はそう言いながら花瓶を元に戻す。
……花に謝るなんて、変なやつ。
私は恩田の注意がそれた隙に、カウンセリング室をそっと抜け出した。