金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

目が覚めたとき、先生はまだぐっすりと眠っていて……

私はその腕から抜け出すと、鞄から携帯を取り出した。

布団の外はかなり寒くて、身体をさすりながら時刻を見ると7時を過ぎたところ。

雪があるせいか、障子ごしに差し込む光が眩しい。


そのまま携帯をカメラモードにして、先生の顔にピントを合わせる。



「昨日の仕返しです……」



そう呟き、撮影ボタンを押す。


よし、これで先生の綺麗な寝顔が……



「あれ……?」



画面の中の先生は、なぜか瞳を開いていた。



「――――ばれてますよ、千秋」


「あ……これはその……おはようございます」


「おはよう。……いま何時?」


「7時過ぎです」


「…………大変だ」



今まで寝ぼけたような顔をしていた先生が、急に目を見開いたので、何事かと首を傾げる。



「朝食までに、終わらせなくては」


「終わらせるってなにを……」



聞いてる間に、私の身体は柔らかく布団の上に倒されていて。



「昨夜の分、千秋を食べ損ねていますから」


「え、まさか今から――――ふぁ!」



最初はじたばたした私だったけれど、浴衣の中に滑り込んでくる手の動きに翻弄されて、身体も思考も甘く溶かされてしまうのだった。


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