金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
――幸せな時間は、あっという間に過ぎて。
美しい雪景色に別れを告げなければならない時間になった。
ずっとここで、先生と夢の中に居られればよかったんだけど……現実はそう甘くはない。
二人きりの旅が終わってしまうのが切なくて、私は帰りの新幹線に乗り込むなり黙り込んでしまう。
「……そんなに切なそうな顔をしないで、新学期になればまた毎日逢えます」
「……新学期にならないと、逢えないんですか?」
子どもみたいなことを言う私に、先生は困ったように笑いかける。
「年末年始は、実家に帰ろうと思ってるんです。親に顔を見せたいし、姉さんのことをまだ叱り足りないし……
それから、小夜子に連絡を取って、きちんと別れる手続きもしなければいけません」
…………そっか。そうだよね。
二人が逢うのはいやだけど、ずっとこのままで居るわけにはいかないんだ。
私がうつむいて、膝の上でぎゅっと拳を握ると、先生がそこに自分の手を重ねてきた。
「つらい思いばかりさせて、本当にごめん。でも、千秋のためにも、このことはちゃんとしたいから……」
「……わかってます」
どうしても拗ねた言い方になってしまう私に、先生が言う。
「……そうだ、ずっと思っていたのに言い出すのを忘れていたのですが、千秋の携帯の番号を教えてください。そうしたら、逢えなくても声が聴ける」