金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
けれど冬休み中、結局私から電話をかけることはなかった。
先生は実家に帰ると言ってたし、なんとなく、出てくれなかったらどうしようとか、今は忙しいとか言われたらショックだなとか、色々考えてしまって……
先生からもとくに連絡はなくて、やっぱり、話せるのは始業式の日なのかな……なんて思っていた私。
だけど、年が明けて数日、冬休みの最終日の夜に、私の携帯が初めてそのディスプレイに“恩田先生”という四文字を表示した。
眠たかったはずの脳が覚醒した私はベッドから飛び起き、布団の上で正座して通話ボタンを押す。
「も、もしもし……っ」
『…………ふっ』
先生の声を聞くのを待ち焦がれていたのに、最初に聞こえたのは、鼻息が通話口をくすぐる音。
…………先生、笑ってる?
「あの……」
『ごめんね。千秋の声があまりにも緊張していたので、可愛いなと思ってつい……』
「……だって、話すの久しぶりじゃないですか」
『そうですね。新年の挨拶もまだでした。明けましておめでとう、千秋』
「……おめでとうございます」
今年もよろしくお願いしますって、続けたいところだけれど……
ずっと気になっているあの話を先生の口から聞くまでは、なんとなく言いたくない。
私の沈黙からなにかを感じ取ったのか、先生はしばらく間を置いてから、話を切り出した。