金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
棚から適当な資料を手に取り、ぱらっとめくってみる。
それは看護系の大学の資料で……
「……私には、無理そう」
たった数ページでそんな感想を抱き、すぐに棚に戻してしまった。
すると背後で扉の開く音がして、振り返ると恩田先生が立っていた。
私は、ちょうどよかったと思って、先生に相談してみる。
「……先生、私自分が何をしたいのか全然わかりません。これといって夢もないし……だから、大学も選べな――――」
言っている途中で、先生に抱き締められた。
いつもより力が強くてなんだか苦しい……
「……先生?」
呼びかけても、先生は何も言わない。何かあったのかと、急に不安になる。
やがて身体を離した先生は、一人で納得したように言う。
「……やっぱり、断ってきます」
「断る……?」
「ごめん、急ぐから」
訳のわからぬまま立ち尽くす私を置いて、先生は風のように出て行ってしまった。
私の話……全然聞いてくれなかった。
何をそんなに急いでいたの?
断るって……一体なんのこと?