金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
それからもずっと、先生は様子がおかしかった。
表面的にはいつもと同じだけれど、なんだか焦っているような、そわそわした雰囲気が漂っていた。
何かあったのかと聞いても、「千秋が気にすることじゃない」と教えてくれなくて……
春休みには、電話で何度か話はしたものの一度も会ってくれなかった。
「……確かに、春休み前の恩ちゃんは変だった」
「板書もよく間違えてたよね。普段はそんなこと、滅多にないのに」
始業式の前の日、有紗と菜月ちゃんを誘って街に遊びに来た。
困ったときは、この二人に相談するのが一番だ。
「やっぱり、変だよね……」
甘い香りの漂うドーナツ屋さんの店内で、私は二人を前にしてうつむいた。
私じゃなくても気が付くほど様子の変だった先生……
なにがあったんだろう。
なんでそれを、私に教えてくれないんだろう。
「“断る”ってフレーズが気になるよね。断ることってなんだろう……なにかの誘いか、告白とか」
「……お見合いとか!」
悩む菜月ちゃんに、有紗が人差し指を突き立てて見せた。
でもすぐに、一層表情を暗くした私の方を見てその手をテーブルの下にしまった。
「……千秋、今のは私の勝手な想像だからね?」
「でも……そうかも」
私に教えてくれない話。
教えたくない話。
春休みに会ってくれないのは、他に好きな人ができたからで……