金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……もし仮にそうだとしても、恩田先生が千秋ちゃんを捨ててほかの人に走るなんてあり得ないよ。
先生の様子は確かにちょっと変だったけど、それでも千秋ちゃんを見る目は優しかったもの。みんなにばれちゃうんじゃないかって、ひやひやするくらい」
「……確かに。冬休みが明けてからの恩ちゃんはすごかった。好き好きビームが千秋にまっすぐ飛んでたもんね」
「……まさか」
二人はそう言ってから、顔を見合わせた。
私も、きっと二人と同じ予感がしている。体中から血の気が引いていくのがわかった。
「学校にばれた……?」
誰もが口にしたくなかったことを、有紗が呟いた。
菜月ちゃんは他人事と思えないのか、痛みをこらえるような顔をしている。
「で、でも!それじゃ“断る”の意味はわかんないし……」
「学校に、“別れろ”って言われたのかも……」
菜月ちゃんの呟きが、胸に突き刺さった。
あの日、先生は校長先生に呼び出されていた。
もしかしたら、私との関係を聞かれて、だから様子がおかしくて……
「……千秋、平気?」
一口も食べていないドーナツを持つ手が震えているのに気付いて、有紗が声を掛けてくれる。
私は頷いたけど、胸の中は“どうしよう”の思いでいっぱいだった。
早く、先生に会って本当のことを聞きたい――――。