金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
けれど先生はいつになっても教室に姿を表さなかった。
始めは気に留めていなかったクラスメイトたちも、次第にざわつき始める。
「恩ちゃん、どうしたんだろうね……」
席を立った有紗が私の側まで来て、そう言いながら扉の方を見つめる。
本当に、どうしたんだろう――……
昨日、あんな仮説を立ててしまったから余計に心配になる。
やがて勢いよく開いた扉から入ってきたのは、私たちの待ち人ではなくて……
「――はい、席について。恩田先生はちょっと今忙しいのでね、私が代わりに出席を取ります。それでは……」
学年主任の先生が、有無を言わさぬ強引さでクラスのざわつきをおさめ、淡々と出席を取っていく。
それが済むと急いで廊下に並ばされ、始業式の行われる体育館に向かう私たち。
新しい学年の始まりなのに、気持ちの晴れない朝だった。
それは私だけじゃなく、恩田先生を好きなクラスのみんながきっと抱いていた思い……