金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
『ずっと夢だったんです……教育のままならない国の子どもたちに、何かを教えるのが。だけど、小夜子のことがあってからは自分が生きていくので精いっぱいで、そんなことを考える余裕もなかった……
僕は忘れていたんですが、一度その夢の話を校長に語ったことがあったらしいんです。だから、今年を逃したらもう挑戦できなくなるけど、いいのかって言われて……』
先生らしい、素敵な夢だと思う。
先生なら、きっと勉強以外の大切なことも教えられる。
先生は、そういう場所に必要な人だと思う。
……何とかして自分を殺せば、そう思うことはできるけど……
『いかないで……』
『千秋……』
『途上国の子どもたちにも先生は必要かもしれないけど、私にも必要なんです……!
やだよ……先生と二年も離れるなんて、絶対にいや……っ』
子どもみたいに泣き出す私を、先生は優しく抱き締めた。
それこそ、子どもを安心させるみたいに、背中をトントンと、軽く叩きながら。