金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……美味しい?」
「美味しい、ですけど……普通に食べたいです」
せっかく美味しいのに、こんな食べさせられ方じゃ味が半減するよ……
そう思いながら、先生を睨む。
「……だめですか?今日は思いきり千秋と仲良くしたかったのですが……」
捨てられた子犬のように、しょんぼりする先生。
そんな顔、ずるいよ……私が意地悪したみたい……
「……もういっこ、ください」
確かに、残された時間が少ない私たちは、今のうちにあきれるほど仲良くしておくべきなのかもしれない。
これからは、したくたってできなくなるんだから……
そう思って次のトマトを要求すると、先生は掴んだトマトを私でなく、自分の口に入れた。
そのままにこっと微笑んだかと思うと、片手で私の後頭部を掴んで唇を寄せてきた。
あ……もしかして……
うっすらと唇を開くと、予想通りトマトが私の口の中に移動してきた。
「……美味しい?」
さっきと同じ質問。
だけど私はぷいっと顔を背ける。
美味しいに決まってる……さっきの100倍は甘い。
……だけど素直にそう言うのは恥ずかしいんだもん。