金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

いつまでもそっぽを向いたままの私を見て、先生が呟く。


「やっぱり木村先生の助言なんて、あてになりませんね……」


「――――え?」


「いや、彼曰く、女の子は口移しにめっぽう弱いと力説してたものですから……離れる前に一度試してみようかと」



……木村先生。

そういえば、ここに来る前に菜月ちゃんに……



「……木村先生の言うことを聞いて、間違いはなさそうですね」



私は、独り言のように呟く。

さっきの口移しは、正直……効きました。

だったら、私だって仕返し……



「先生、ちょっとごめんなさい!」


「え……あ」



私は両手で先生の肩を押し、畳の床に押し倒した。


“たまには女の子が積極的だと男は嬉しい。恩田先生を骨抜きにするひと時を!”


菜月ちゃんを通して聞いた木村先生のアドバイスを、胸に携えながら。


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