金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「千秋……」
先生は上半身を起こして、自分でも気づかないうちに涙を流していた私を、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「もういっぱい過ぎて、溢れてますよ。その記憶に泣き顔が多いのが、心残りですが」
「ごめんなさい……先生と居ると、嬉しくても、何故か泣きたくなるんです」
そう言って先生の服に涙をこすりつける私の顔を、先生が両手でそっとはさんで覗き込んでくる。
「……笑って見せてごらん」
「そんな……急に言われても……」
「千秋の笑顔が見たい。それを励みに、向こうでも頑張りますから」
……そっか。そうだよね。
うじうじ泣いてる私の記憶ばかりじゃ、気持ちよく旅立てないもんね……
私は今自分の作れる精いっぱいの笑顔を、先生に向けた。
きっと、不細工な泣き笑いだったと思う。
だけど先生は愛しそうに目を細めて
「ありがとう……」
そう言って、私にキスをした。
結局、その後は先生に主導権を奪われていつものように骨抜きにされたのは私の方。
このまま時間が止まってしまえばいいのに……
叶わないとわかっていても、そう願わずにいられなかった。
残りわずかな時間を噛みしめるように、私たちは強く強く、抱き締めあった。