金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
それから私たちは、色紙を誰が用意するか、贈る花の予算や種類についてノートに色々書き出しながら話し合った。
「……プリムラ?知らねえ」
「旅立つ人に贈る花言葉っていうのを少し調べてみたんだけど……そしたら、プリムラの花言葉が一番素敵で」
「……なんて言葉なんだ?」
「――――運命を開く」
……私を忘れないでとか。ずっと待ってるとか。
最初はそういう意味をもつ花にしようかなと思った。
だけど、そうじゃなくて……この別れは、私たちの運命を開くために必要なものなんだって、そう思いたいから……
「……なんか、かっけーな」
感心したように言う土居くんに、私はにっこり微笑みかける。
「でしょ?この花言葉を見つけたとき、“これだ!”ってびびっと来たの」
「いや、花言葉じゃなくて、三枝が」
「え?」
「一番大切な人が遠くに行っちまうのに、そんなポジティブな言葉を贈ろうと思えるところがすげーと思う。俺だったらもっと女々しいの選びそう」
さっきは泣き虫とか言ってたのに、急にほめないでよ……
なんだか気恥ずかしくなって、私はうつむく。
「これ入れようぜ、恩ちゃん絶対喜ぶ」
「…………うん、そうだといいな」
私は筆箱から赤ペンを取り出して、ノートに書かれたプリムラの文字に、大きく丸を付けた。