金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
数日後――……
ついに先生の最後の授業の日がやってきた。
六時間目の現代文の時間。
先生はいつも通りに、穏やかな声で教科書を読み上げる。
大切に、噛み締めながら、先生の姿も声も記憶に焼き付けようとしたその時間は、あまりにも短く感じられて……
「――今日は、ここまでです。来週からは国語担当で一番怖い金杉先生が教えてくださいますから、僕の教え方がなってないと思われないよう、よく予習しておくように」
冗談混じりにそう言った先生だけど、誰ひとり笑わなかった。
本当に、今日で最後なんだと思うと……みんな思うことがあるみたいだ。
「……ちゃんと、帰りのホームルームまで居ますから……今からそんな顔しないで下さい」
先生が笑顔でそう言っても、教室の雰囲気は変わらない。
それはこのクラスで、どれだけ先生の存在が大きなものだったかを物語っていた。