金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

真っ赤な目をした先生の元に、女子たちが駆け寄って抱きつく。



「恩ちゃんが先生でよかったよぉ……」


「先生、今までありがとう……」


「……体に気を付けてね?先生のこと、絶対忘れない……」


「ありがとう、恩ちゃん……」


「恩ちゃんは、最高の先生だったよ……っ」



思い思いの別れの言葉を告げる彼女たちに、先生は泣き顔のまま笑って、こう言った。



「僕の方こそ……きみたちに出逢えてよかった。僕の生徒になってくれてありがとう。
誰のことも、忘れたりなんかしません……きみたちも体に気を付けて、受験、頑張って下さいね」




――その日はみんな、先生との最後の会話を終わらせたくなくて放課後遅くまで残っていた。

もう帰りなさいと言われても、いやだってわがままを言って……


時折ほかのクラスの先生方が、開けっ放しの教室の扉からその光景を温かい瞳で見ながら、通り過ぎて行った。


こんな風にみんなに愛される先生が、私はやっぱり大好きだ……


きっと向こうに行っても、たくさんの人に好かれるんだろう。


少し妬けるけれど、私が好きな先生は、みんなに優しい先生だから仕方ない。


私は先生を応援しながら待つだけだ。


どんなにつらくても、寂しくても……


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