金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

――2週間後の出発まで日本に居るとはいえ、研修は合宿形式で行われるので、その前の休みに逢った後は見送りの日までずっと逢えない。


その貴重な休日、先生はもう私とのことがばれても自分は学校を去るから咎められないだろうと外でのデートを提案してくれたのだけど、私はそれを断って、先生の家がいいとお願いした。



「本当に、今日はずっとここにいるの?これから二年間、どこへも連れて行ってあげられないのに」


「……いいんです。外に出て色んな物を見るより、今は先生と……この庭を見ていたいから」



縁側に並んで、手をつないで座る私たち。

よく晴れた9月の午後は、残暑が厳しくて額に汗が浮かんでくる。


いつもより口数の少ない私たちは、さっきからぽつぽつと取り留めのないことを話すだけ。


こんな風にぼんやり過ごすのはもったいないような気もするけど、これからのことを話すのは嫌だった。


先生の夢を応援する気持ちはあっても、いくら覚悟ができていると言っても、やっぱり別れのことだけは考えたくなかった。


どう足掻いたって、先生と離れることは揺らがないのに――――。


リミットは、夕方5時。


小学生みたいだけれど、塾も予備校も行かない私を心配したお母さんが最近ちょっと教育ママと化していて、遅くまで外出していられなくなってしまったのだ。


今日くらい、反抗してもいいのかもしれないけど……

今まで散々心配かけて来たのだから、それくらいの約束は守ってあげたいと思う。


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