金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「……そろそろ、中に入りませんか?」


そんな言葉とともに、今まで普通に繋いでいた手が一瞬離れて、指が絡められた。

その意味がわかるから、私はすぐに頷けない。


これが最後だと思いながら抱かれるのは、どんな風なんだろう……


今まで必死に抑えてきた悲しみが、寂しさが、溢れ出してしまわないかな。

また、わがままな私に逆戻りしてしまわないかな。

終わった後でちゃんと、先生のこと……離してあげられるかな。



――こんなとき、やっぱり自分は子供だと思う。

先生はちゃんと帰ってくるんだから、今日は存分に楽しめばいいじゃない。

これから長い間、抱き合いたくても抱き合えないんだから。

……そんな風に割り切ることができない。


こうやって私が迷っている間にも、時間は止まってくれない。

今は一分一秒が大事なのに……
もったいないよね、往生際が悪いよね。


でも怖いんだもん……


キスをすればするほど、先生を感じれば感じるほど、離れられなくなりそうで……


怖いんだもん……


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