金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
駅までの道のりはほんの五分くらいだったけれど、緊張して、うまく息ができなくて、なにを話したのかも覚えていない。
いつもは自転車通学だからと切符を買いに一人になると、やっと少しだけ気持ちが落ち着いた。
切符を持って駅の柱にもたれる先輩を遠くから眺めると、この場所に居る他の誰よりもカッコよく見える。
私……重症かも。
「ごめんなさい、お待たせして」
「んーん、平気。それよかさ、電車来るまでまだ時間あるなら連絡先交換しない?」
ドキン、と胸が跳ねた。
先輩は私の返事を聞く前から携帯を出していて、有無を言わせない感じだった。
「は、はい……!」
こんな時に限ってカバンの奥で迷子になっている携帯を必死で捜し当て、赤外線通信で先輩と連絡先を交換する。
先輩の髪の色と同じオレンジのカバーがかかったスマホと私の黒いガラケーが見えないものでつながった気がして、せっかく落ち着いたはずの心臓がまた暴れ出した。