金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
ライラック
付き合う……
付き合わない……
花占いをするみたいに、頭の中でその言葉がぐるぐると回る。
けれど答えは出ないまま、あっという間に電車は私の降りる駅に着いてしまった。
有紗たちと一緒にいたときに『遅くなるけどご飯はいる』とお母さんにメールをしておいたから、とりあえず早く家に帰ろう……
私は広い道を通るより短い時間で家に帰れる抜け道の方へ足を進めた。
両脇に昔ながらの家が建ち並ぶその道は、せまくて暗い。
あまり女の子一人で歩かない方がいいのだろうけど、昔はわざわざここを通ったものだった。
目的は、ある小さな家の庭。
「……今年も、いい香り」
私はまるで蝶のように香りをたどって、その花を見つけた。
低い塀から伸びる枝が咲かせているのは、白いライラック。
私はしばらくそこに立ち止まって、香りを胸一杯に吸い込んだ。