金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
キンモクセイ
授業をさぼるのはダメだって言われたけれど……
上の空になってしまうのは許してほしいと思う。
私は、今日何度見たかわからない、講義室の掛け時計に目をやる。
授業が終わるまで、あと5分。時間が過ぎるのをこんなに遅く感じたことはない。
「――――それでは、本日はここまで」
教授の言葉を聞くなり、私はどの学生よりも早く立ち上がった。
頭の中は、先生のことしかない。
そんな私を、一人の人物が呼び止めた。
「三枝、なにそんなに急いでんの?」
学部共通の授業だったから一緒に講義室にいたんだろう、土居くんが呑気な顔で聞いてきた。
「なにって……」
本当はその質問を無視してしまいたいくらい急いでいたけど、相手は今までお世話になりっぱなしの土居くん。
彼にはちゃんと説明しなきゃ……
「先生がね、今日帰ってくるの」
「え、恩ちゃんが?」
「うん……やっと逢えるの」
「そっか……よかったな」
土居くんは、心からの笑顔でそう言ってくれた。
「うん!」
私もそう言って笑うと、すぐに踵を返して講義室を飛び出した。