金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
夢の中を走るみたいに、足がもつれそうになる。
だけど確かに一歩一歩……私は先生に近づいてる……
――各駅停車にイライラしたのは初めてだ。
電車はなにも悪くない。
私がただ、自分勝手に焦っているだけ……
“逢いたい”の気持ちが強すぎると、人は性格まで変わってしまうみたいだ。
それでもようやくいつもの駅に着き、改札を出たところで私の足が止まった。
ぽつ……と、頬に水滴が落ちて来たのだ。
「雨……?」
空を見上げると、徐々に雨粒がたくさんになって落ちてくる。
こんな雨くらい……どうってことない。
私はあっという間に黒く染まったアスファルトに一歩を踏み出し、冷たい雨の降る中を、先生の家目指して駆け出した。