金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
やがて、庭に面した窓が勢いよく開いて……
「――――何してるんですか!こんなにずぶ濡れで……」
靴下のままで庭に下りてきた先生が、私を背中からぎゅうっと、抱き締めた。
「先生……だって、金木犀が散っちゃう……」
「大丈夫です……これは通り雨だと、さっきテレビで言っていました。よく見て、まだ半分以上花は残ってますよ……」
私は、何度か瞬きをして目の前の木を見つめた。
……本当だ。落ちている花があまりに多いから焦ってしまったけど………
よく見たら、まだたくさん残ってる……
「まさか、こんな再会になるとは……」
耳元で、先生が苦笑するのが聞こえて……私は我に返った。
今、私……
先生に抱き締められてるの……?
慌ててその腕の中で方向転換をし、見上げた先生の瞳は……
二年前と変わらない優しい色の中に、私を映してた。
「せんせ……本物、ですか……?」
これは夢じゃないよね……?
私の幻想じゃないよね……?
「ちゃんと触ってごらん。生身の人間でしょう?」
私の手を取って、自分の頬に触れさせた先生。
雨で濡れていても、あったかい……
その熱が手から伝わってくると、自然と私の目から涙がこぼれた。
先生が、ここにいる……
帰ってきたんだ……本当に……