金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
ふわり、重なったふたつの濡れた唇。
閉じているまぶた越しに、空が明るくなったのがわかった。
本当に、通り雨だったんだ……
ぼんやりと思う私の思考は、すぐに熱い先生の舌に絡め取られてしまった。
雨上がりの太陽が、金木犀の香りを蒸発させていくのを嗅覚が感じ取る。
幸せな、甘い甘い香り。
それに包まれながら、離れていた時間を取り戻すように、何度も何度もキスをして……
ようやく離れたと思ったら、先生はもう一度触れるだけのキスをした。
「……ねえ、ずっと気になっていたんだけど」
「……?」
「どうして指輪をしていないの?」
先生が、私の左手の薬指をさする。
あのときもらった指輪は、大きなダイヤが付いていたから普段つける勇気はなくて。
だからといって、ケースもないから、私はここに付けることにしたんだ……
ぷちん、と着ていたシャツのボタンを上の方だけ外して、先生に見せたのはペンダント。
そのチェーンに、琉球ガラスの涙と一緒にあの指輪を通しておいたんだ。