金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「ただいまー」
「お帰り、新しいクラスはどうだった?」
「ん―、また有紗と一緒だから平和そう」
玄関でローファーを脱ぎながら、お母さんに笑顔で答える。
本当は、恩田が担任だったことがかなり私を憂鬱にさせていたけど、それは言わない。
いつも優しくて、料理が上手で、子供として恥ずかしいくらいお父さんと仲が良くて……
大好きな、可愛いお母さん。
彼女を悲しませたくなくて、私は中学の時の、あの忌まわしい日のことは言わないという選択をした。
二階の自分の部屋に上がり、制服から部屋着に着替えるといつもの儀式をする。
机の上にいつもある、中学の卒業アルバムを床に置き、右手にはコンパスを持つ。
開くのは、自分の居た三年三組のページ。
その中心で微笑むある人物をめがけて、私はコンパスの針を思い切り振り下ろした。