金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「ただいまー」


「お帰り、新しいクラスはどうだった?」


「ん―、また有紗と一緒だから平和そう」



玄関でローファーを脱ぎながら、お母さんに笑顔で答える。


本当は、恩田が担任だったことがかなり私を憂鬱にさせていたけど、それは言わない。


いつも優しくて、料理が上手で、子供として恥ずかしいくらいお父さんと仲が良くて……

大好きな、可愛いお母さん。


彼女を悲しませたくなくて、私は中学の時の、あの忌まわしい日のことは言わないという選択をした。



二階の自分の部屋に上がり、制服から部屋着に着替えるといつもの儀式をする。


机の上にいつもある、中学の卒業アルバムを床に置き、右手にはコンパスを持つ。


開くのは、自分の居た三年三組のページ。


その中心で微笑むある人物をめがけて、私はコンパスの針を思い切り振り下ろした。


< 5 / 410 >

この作品をシェア

pagetop