金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
優しく、触れるだけのキス。
しばらくして唇を離した先輩が言う。
「……千秋、震えてる。嫌だった?」
私は首をふるふる横に振った。
「初めて……だったから……」
「マジ?嬉しい。じゃあ二回目も……」
再び曽川先輩の顔が近づいてきて……今度は少し、長いキスをした。
「……そろそろ、戻る。終わったらメールするから」
名残惜しそうに部活に戻る曽川先輩を見送って、私は一人、彼がもたれていたフェンスをつかんで呼吸を整える。
初めて……男の人とキス、しちゃった。
唇が、熱を持って、なかなか冷めてくれない。
視線の先には、風にさらさら揺れる赤いツツジたち。
幼い頃に味わったその蜜はとっても甘かったけど……
さっきのキスを思い出すとよみがえる、頭の芯までとろけそうな甘さはそれ以上……ううん、比べものにならない。
「幸せ過ぎて怖いって、こういうことを言うのかな……」
体育館裏でぽつりと、私はそう呟いた。