金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
携帯を開いたまま葛藤していると、ほどなくして先輩は現れた。
「おはよ、千秋」
「あ…お……おはよう、ございます」
先輩は大きめのTシャツにゆるめのジーンズ、そして頭に真っ赤なキャップを被って微笑んでいた。
ラフなのに、背が高いからかものすごくサマになってる。
「とりあえず、メシ食いにいこっか」
だけど先輩は私の服装なんかどうでもいいみたいで、いきなりそう言って私に手を差し出す。
……男の人なんて、そんなものだよね。
ほんの少しのがっかりは胸の奥にしまい込んで、私はその手を控えめにつかむ。
「……もっとちゃんとつかまっとけ。その靴可愛いけどすぐこけそう」
先輩はそう言って私の指に自分の指を絡め、私を引っ張るように歩き出した。
靴……ちゃんと、見ててくれたんだ。
それに……この手も……
先輩と深くつながれた気がして、嬉しい。