金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
店の入り口には、開店祝いの胡蝶蘭がいくつも置いてあった。
高価なその花を目にして気後れする私には気づかず、曽川先輩は重たそうな扉を力強く引く。
むわりと香る、お酒と煙草のにおい。
それに私が今着ている服を買った、あの店で流れていたようなやかましい音楽が耳障りだ。
あまりの居心地の悪さに逃げ出したくなったけど、先輩は私の手を引いたまま奥へとずんずん進む。
ここ、絶対に高校生が来るような場所じゃない……
でも、先輩がこういう場所で遊ぶのが好きなら、私も好きになった方がいいのだろうか。
ぼんやりそんなことを考えていると、一つの小さなテーブルの前で先輩が足を止めた。
テーブルと言っても周りに椅子はなく、立ったまま飲み物を飲むための背の高いつくりだ。
そこで綺麗な色の飲み物を飲んでいた男女二人組に、先輩が声をかけた。
「――よぉ新(あらた)、約束通り連れてきたぞ」
さっき言っていた先輩のお友達……かな?