金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「……私が、彼はそういう人だと見極められなかっただけです。だから先生、さっきは靴をぶつけたりしてごめんなさい」


「いや……それはいいんだけど」



話はそれで終わりじゃないよね、という風に、恩田が私を見る。

……ここからが、本番。


私はもう一度カモミールティーのカップに手を伸ばし、その香りと味で心を落ち着けてから話し出した。



「今回のことで、私があんな風になってしまったのは……たぶん過去に原因があるんです」


「それは……さっきの写真と、関係あるのかな」



私はうなずいて、そしてお母さんの方を見た。



「お母さん……今まで話せなくてごめんなさい。お母さんを心配させたくなくて、私ずっと、隠してたことがあるの」



お母さんは覚悟を決めたように強い眼差しで私を見つめ、それからあたたかな手を私の手に重ねた。


そのぬくもりに勇気をもらって、私はついにあのことを話した。

中学時代の、消し去りたい過去……

消し去りたいのに忘れられない、悪夢のような日々のことを……


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