金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
先生は、少し考えてから眉毛を下げて寂しそうに笑った。
「僕は、もう見逃したくないんです……助けを求めている人の、どんな小さなサインも」
「サイン……?」
「……いや、ごめん。今のは忘れて?」
忘れて、と言われたら余計に気になってしまって先生を見つめたけど……
彼はくるりと私に背を向け、足早に廊下の向こうへ歩いて行ってしまった。
何だろう。先生、いつもと違ったけど……
少し疑問に思いながらも、私が考えても仕方のないことだと思い直して教室の中へ戻った。