金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

「――――先生?」



声を掛けると、先生はその淡いピンクの花そっくりの、柔らかな笑顔を私に向けた。


きれい……なんて男の人を形容するにはふさわしくないかもしれないけれど、先生はそのとき、確かに綺麗だった。



「実行委員会、終わったの?」


「あ……はい!来週の金曜にまた集まりがあるんですけど、そのときまでにクラスTシャツの色とデザインを決めておくように言われました」


「そっか。じゃあ今週のLHRのテーマはそれだね」



そこで、話は途切れた。

私は言うべきことは言ったし、もう帰っていいはずなんだけど……ハナミズキを見上げて、口を開いた。



「花が好きなんですか?」


「うん、好きです。暇さえあればこうして見てるんだ。学校にはうちの庭にない木も花も、たくさん植えられているからね」



やっぱり、そうなんだ。

私の胸に、小さな喜びが芽を出す。


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