金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「私も……本当は花が好きなんです。
でも、初めてあの人に……岡澤にセクハラされたときの記憶の端にも花の存在はあって、だからその日からずっと、どんな花も素直にきれいだと思えなくなってたんです」
「三枝さん……」
「――――でも、今はこのハナミズキ、すっごくきれいだなって思います」
にっこり笑って見せると、先生は安心したように息を吐き出す。
「良かった……本当に。
実はね、さっき一度三枝さんの出身中学に電話してみたんだ。岡澤先生はたまたま席を外していたけど、僕あてに折り返してもらうよう頼んだから……」
「そう、ですか……」
近いうちに、岡澤と会うということだよね……
私、ちゃんとアイツと向かい合うことができるんだろうか。
背後からじわじわと、不安が迫ってくる。
「大丈夫。僕も、一緒に居るから」
先生は私の心の傾きを素早く察知し、そう言って私の肩に手を置く。
実行委員会に付き添われるのは恥ずかしいと思ったけど、今回は先生に、そばにいてほしい。
私は先生を見上げて、小さくうなずいた。