金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「先生……あいつは、なんて?」
先生は難しい顔を浮かべて、その質問には答えずに言う。
「とにかく……直接話してみよう。ええと、誰か車を貸してくれそうな人……」
先生の視線が、職員室内をぐるりと一周した。
そして近づいていったのは、四月に新卒で入ったばかりの若い男の先生だった。
「木村先生、ちょっと車貸してもらえませんか」
「え……?どうしてまた」
「これから生徒を送りたいんだけど、きみの車が一番女の子が喜びそうだから」
「……自分まだ隣に誰も乗せたことないのに」
「悪いね」
悪いね、と言いつつ全くそんな素振りは見せず、先生は受け取った鍵を手の中でもてあそびながらこちらに来た。
「足もゲットしたことだし早速行きましょう」
「木村先生、嫌がってませんでした?」
「いいんです、国語教科の後輩だから」
いつもの優しい先生とのギャップに驚きつつ、先生同士の仲の良さに私は笑みを洩らす。