金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
「……その笑顔、忘れないで」
「え……?」
「もしかしたらつらい話し合いになるかもしれない。だけどどうか……笑顔は失くさないで欲しい。僕も力を尽くすから」
……先生。
やっぱりさっきの電話でそれなりのことを言われたんだ。
しっかりしなきゃ。
でないと、潰れてしまう。
私は自分を奮い立たせる意味でも、先生を見つめてしっかり頷いた。
――――職員用駐車場に停めてある木村先生の車は、レトロな雰囲気の小さな黄色い車だった。
「わぁ、可愛い」
「気に入ってもらえて良かった……なんて、僕の車じゃないけどね」
「先生は何で通勤してるんですか?」
「僕の愛車は、あれ」
指差した先には、どう見ても普通のママチャリが一台止まってた。
ええと……どうしよう、お世辞が一つも浮かばない。
「エコでしょう?」
「あ、そうですね!確かにエコ!」
先生に乗っかっただけなのに、満足そうな笑みを浮かべてキーを回した先生がなんだか可愛かった。