金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
ナノハナ
恩田先生は私の緊張を解そうと、木村先生の車に積んであったCDを勝手に物色したり、くだらない冗談を言ってみたり……
中学校に着くまでの間ずっとそうしてくれていた。
黙っているよりはずっと良かったけれど、それでも私は緊張してしまっていた。
到着したときには手足が痺れ、喉はからからに乾いて、すぐには車から降りられなかった。
「とりあえず僕が一人で行ってきて、三枝さんはここで待ちますか……?
ちゃんと謝罪をしてもらえるとわかったら、呼びに来ますから」
先生は私を心配して、そんな風に言ってくれたけれど、私は首を横に振った。
……今日は、逃げない。
先生と一緒に、あいつに立ち向かう。
「大丈夫です……私も行きます」
「そっか……じゃあ行こう」
先に車を降りた先生が助手席側のドアを開けてくれて、私も外に出る。
目に飛び込んできたのは、見慣れた校舎。
けれど懐かしいなんて思いに浸ることはなく、私にとっては冷たい監獄のようにしか見えなかった。