金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
職員玄関で手続きを済ませると、女性の先生に応接室に通された。
皮張りの黒いソファに二人並んで腰掛け、ちょうど向かい側に見える扉をじっと見つめる。
早く忘れたくて、記憶から抹消したくて、それなのに鮮明に覚えている岡澤の顔や声や……私に触れた手の感触。
それらから、やっと解放されるときが来たんだ。
私は、負けない……
スカートの上でぎゅ、と手を握りしめた瞬間、扉がノックされた。
ドクン……
波打つ心臓の音が、私の身体を強張らせる。
恩田先生はそれを察したかのように、私の手にそっと自分の手を重ねた。
ほんの一瞬だったけれど、そのあたたかさは“大丈夫”と私に言い聞かせてくれるようだった。