【短編】異端の二人
「前から変だと思ってたわ。だって、あなたと出会ってからの事は、どんな些細な事でも何もかも全部覚えているのよ? まるで昨日の事のように……」

「そうだね。君には“忘却”という機能がないからね」

「それなのに、あなたと出会う前の記憶はほんの少しだけで、しかも断片的だった。いつしか私は、その記憶が現実のものとは思えなくなっていたの」


その時、ナナはある事に思いが及んだ。


「だったら、私が特殊な能力のために人間不信になったという記憶も、あなたの作り話だったの?」

「そうだよ。あれはね、君をこの屋敷に閉じ込めておきたかったからさ。君とずっと、二人きりでいたかったから……」

「なんだあ。最初から私には特殊な能力なんて無かったのね……」


そう言えばナナは、タカと出会ってから以降、人の心を読んだ経験がない事実に気付いた。タカ以外の人間に一度も会う事がなかったからだと、今までは疑問に思わなかったのだが。

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