イベリスの花言葉。
あたしは手足が震えるのを感じた。
今の状態のあたしができるのは一つ。
早く意識を取り戻して、あの男を捕まえてもらわなくちゃ。
でも、どうしてあたしを恨んでいるの?
悪いけれど見覚えなんて無い。記憶にも無いあの男をあたしが知っているはずが無い。
外に飛び出し、走りながら考える。
答えはどこにも無いけれど病院に着くまでの間それしか考えられなかった。
手術室の前には、陸や社長が青ざめた顔で座っていた。
手術中のランプが消える前に中に入る。
横たわっていたあたしの命は必死に生きていた。
意識の無いあたしの体に入ろうとするも、どうしたらいいかわからない。
戻らなくちゃ。戻りたいよ・・・!!
「目を覚ました!!」
結局あたしが目を覚ましたのは手術を終えて一週間が経ったころだった。
幽体での長距離の移動は実体に相当の負荷を与えたらしい。
それに完全に合体するまで結構の時間を使ってしまった。
あたしは言うことの聞かない体に鞭打って口を開く。
「あの男は・・・?」
かすれた声が、あたしの耳に届く。
とても小さな、聞き取れないくらい小さな、声だった。
「あの男は?」
もう一度、あたしの声を紡ぐ。
小さすぎる声は、周りにはよく聞こえなかった。
「まだ、見つかっていないんだ。」
陸だけが、あたしの声を拾ってくれた。
優しい陸の声に安心する。