イベリスの花言葉。
あたしは陸から、今までの捜査の状況を聞いた。
誰一人、怪しい人物を見ていないらしく犯人の目星がついていなかった。
痛むわき腹を庇いながら体を起こす。
「無理すんなよ。」
そう言いつつ、あたしの背中を支えて起こしてくれる。
ありがと、と返事をしながら目の前に居る警察に声を掛けた。
「あたし、犯人覚えてる。」
「本当か?」
あたし、犯人見てないと思われていたのかな?
あたしとあの看護師さんは見たはずだ。
立派なスーツを着ていた。
アルモートというブランドの上質なスーツ。
品のあるグレー色で水色のネクタイをしていた。
手には大きな赤い花束。
シンプルなめがねを掛けていた。
あたしの証言は、あの男の身元を特定する鍵となったそうだ。
看護師さんの意見とあたしの言葉が一致している事から、犯人はあの男で間違いないと見られているらしい。
ただ・・・。
「関係性がないんだよなぁ。」
陸があたしの隣でつぶやく。
そう。
あたしと接線がないから、動機が見当たらない。
無差別殺人にしてはできすぎていると警察は言う。
それに、彼には綺麗な奥さんと可愛いペットも居て幸せ絶頂の新婚さんらしい。
殺しをする理由がわからない。
でも、あの人の目はあたしを恨んでいた。
憎んで、悔しくて、あの目だった。
あたしが両親を殺した殺人鬼を憎んでいたときの目だった。